2012 年 8 月 5 日

人に言えないことがある。

それは,「秘密」というのとは,少し違う。もちろん,長く生きていると,秘密の一つや二つは私にもあるが,このことはそういう「秘密」とは,やはり違う。

言葉にすることが難しい。仮に,言葉にすることができたとしても,言われた当の本人も当惑するだけだろう。私は思うのだが,人にはきっと,そういう種類の思いがその人の最も深い部分にある。

妻にも,友人にも,親にも,まして従業員にも言えない。人が言葉で言えることは,ほんの一部のことだけだ。本当に深い部分は,表現することができない。

私は,人は,一人一人が一個の独立した宇宙のようなものではないかと感じる。孤独と言えば,これほど孤独な存在はない。逆に言えば,深淵を挟んだ一個の宇宙同志が,会話というものをしている,この不思議さ。言葉がお互いに通じるという,この謎。考えれば,不思議なことだ。

人は,他人から色々に見られる。評価する人の枠組みに応じて。私も,人から色々に見られているのだろう。しかし,私がそれを生きている謎を誰も知ることはない。同じように,私も他人がそれを生きている謎を知ることはできない。

謎を生きて,死んだ人は,謎とともに消え去るのだろうか?それとも,死者は,人称性を失った一個の疑問符となって,ここに留まるのだろうか?

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